【企画特集】取り上げる話題やテーマにより企画し、複数回に分けて読み易くしました。今のところ国政や市政関連が中心ですが、今後はより領域を広げます。情報はinfo@press-isesaki.com
 次期衆院選(10月19日公示、31日投開票)で群馬2区から出馬する、堀越啓仁前衆院議員(立憲民主党)と元衆院議員の石関貴史氏(無所属)に、政策を中心に考え方を聞いた。井野俊郎前衆院議員(自民党)は「多忙の折」として取材ができなかった。1回目は自らを「伴走型」とし、人に寄り添う政治スタイルが持ち味の堀越氏。 

 家庭医療制度の充実と予防医療に注力

― 自宅療養を余儀なくされ、死に至るコロナ感染者も出た医療崩壊の大きな要因と、今後のコロナ対策について。

堀越 日本の医療機関は公営30パーセント、民間70パーセント。コロナを封じ込めている国はこの逆だ。効率化だけを求めた地域医療機関の再編・統合などで日本の医療制度は崩壊し、コロナ禍対応で表面化した、ということだと思う。現制度のままの対策では医療費が増大するばかりだが、まずは病床の確保を急ぎたい。今後の大きな仕組みとしては、家庭医制度の充実が必要。疾病治療に診療報酬を払うのではなく、地域で病気がなくなったら診療報酬を支払うなど、予防医療に力を注ぐことが重要になってくる。

― コロナ禍で経済がますます疲弊、停滞しています。どのような対策が必要でしょうか。自国通貨を自由に発行できる国は財政破綻しないとする「MMT」理論についても所見を。

堀越 プライマリーバランスの均衡、財政規律は一旦凍結し、大胆な財政出動を行うべき。消費を促す給付と減税、とりわけ持続化給付や低所得者層を対象とした給付金は絶対に必要。党が提案している1000万円以下の所得者の所得税免除、消費税の5パーセント減税などで全ての人に恩恵が行き渡ることを実施したい。「MMT」理論については財務省のホームページにも書いてあるが、そういう雰囲気はない。私は割と支持しており、京大の藤井聡教授をお招きして何度も勉強会を開いている。

 生活安定に非正規労働者問題解決へ

― 以前から叫ばれ続けている少子高齢化問題は、未だに先が見通せません。

堀越 非正規労働者が50パーセントに届こうとしている労働行政を変えていかないと解決しない。生活が安定することで、結婚や子供を産もうと考える人は増えてくるはず。さらに国が出生や子育て、教育に、より予算を割くことが必要だと思う。労働力不足にはITなどテクノロジーを活用したい。

― 激しい米中対立の中、台湾を巡る緊張も高まっています。外交、防衛もこれまで以上の慎重な対応が求められます。憲法9条改正の是非についても所見を。

堀越 日米同盟の強化がさかんに叫ばれているが、これだけに頼る楽観論は避けたい。加えて緊張関係にある諸外国と外交のパイプを築くこと、それをより強固にすべきだ。憲法9条の個別的自衛権は認めるが、なし崩し的に決められた集団的自衛権には反対する。憲法9条の改正論議は必要だが、前提として国家権力の専制化や恣意的支配を防止・制限する立憲主義を理解し、政権を縛る鎖を強固にしないといけない。

 代替エネルギーに水力活用も 

― 脱炭素社会に向けて世界が一気に動き出しています。国は原発稼働を組み込んだエネルギー政策を進めていますが。

堀越 原発は基本的に即停止で、再稼働、ましてや新・増設はありえない。代替エネルギーの安定的供給としては、水力の可能性に期待している。機能を持たないダムの後付け工事による水力発電、小水力として農業用水も嵩上げ工事で対応が可能だ。河川法を改正し、治水・利水で水エネルギーの有効活用を推進したい。

― 選挙のたびに投票率の低さが目立つ伊勢崎市ですが、市民、とりわけ若者の政治への関心を高めるために何が必要でしょうか。

堀越 若者が政治から離れていくのではなく、政治が若者を遠ざけている面もある。潜在的な関心はあり、そこに我々がコミットできていないだけ。私の場合、日々さまざまな形の座談会を開き、これを積み重ねている。若い人が「楽しいから、面白いから行ってみよう」と次の集まりに、他の友人に声をかけてくれる。そんな連鎖で、政治をもっとカジュアルにしていきたい。
座談会
 【写真】玉村町内で県立女子大生が主催した「ごちゃまぜ座談会」(中央左が堀越議員)

 深夜のファミレスで仲間に背中押され政界へ 

 【横顔・取材メモ】 福祉医療現場で働く中で、周囲の環境が国の施策から置き去りにされているという危機感を覚え、野党統一候補擁立に向けた市民ネットワークをつくった。候補者が絞り切れない中、仲間と話し合う深夜のファミレスで、最終的に背中を押された。

「1日にほぼ3回は着替える」というのは、主催の他、招かれた座談会、高座、政治ラボなど、集まりの雰囲気に合わせるため。ほぼ週末はこうした集会で埋まり、ネクタイ姿は少ないという。介護士や保育士、障害児の母親など、とりわけ女性グループが多い。わかりやすく、同じ目線での語りかけが、集会の連鎖を呼んでいる。

 政治家タイプとして「その能力は決して高くない」と分析し、自らを「伴走型」と捉える。補強手段のひとつとして、コミュニティシンクタンクの確保も計画している。一方、バンドマンのキャラクターを活かした情報発信には長けている。インスタグラムのフォロワー16,000人は「政治家としては多いほう」と胸を張る。

 休日は子どもたちと近場のキャンプなどで過ごすアウトドア派。議員活動の合間の僅かな休憩は、バンド活動のためにとギターやウクレレの練習に忙しい。作曲活動では新曲が完成し、近くSNSなどに配信する。タイトルは「約束」。(2021年10月12日)

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【写真】庁外のワンストップサービスのひとつの拠点ともいえる、スマークいせさき内の「市民サービスセンターあずま」

世代間共生 各支援条例制定なども視野に
臂泰雄伊勢崎新市長に聞く―2021【4】


 多くの政策提言とともに、政治家として求められる政策理念や信条。「共に生きる」、「3つの共生」などを掲げて市政運営の基軸としている、臂市長の具体的な取り組みを聞いた。

― 関連手続き・サービスを一カ所の窓口や一回の手続きで一括して行える、行政のワンストップサービスを公約に掲げています。

 臂市長 出来るところから少しずつやっていこうと思っている。いろいろ取り組まなければならない中で、例えば相続や税金、さまざまな手続きなどが発生する葬儀の窓口などについては、ワンストップ化に向けて動いている。もう少し先になれば、市民の皆さんが役所に来ていただいた時に、一カ所で用事を済ませたり、どこでどのように手続きを行なえば良いかなど、説明対応できるような窓口にしていきたい。

 ― 「地域間」「世代間」「SDGs(持続可能な開発目標)」による“共生”を市政運営の理念に掲げています。それぞれの取り組みについて教えて下さい。

 臂市長 まず地域間の共生だが、伊勢崎の場合、行政区が市町村合併からほとんど変わっていない。それを単に適正規模に整えるということではなく、より統一感を持った形にしていく。地域からもっと積極的に市に関わってもらいたいし、一方で地域にもいろいろな事をしていただきたいので、そんな面からも見直していきたい。

 ― 残る2つの共生については。

 臂市長 高齢者の皆さんには、もっと社会に関り活躍してもらいたい。そのための高齢者支援の条例を議員提案してもらえないか、市議の皆さんに働きかけている。こうしたいくつかの世代に関わる条例制定などで、まずは世代間の共生を図っていきたい。SDGsについては女性や外国籍の市民など、多様性をより重視した取り組みを考えている。

 【取材メモ】インタビューは記者が事前に提出した質問に応える形で、具体的な市政運営について語ってもらった。臂市長は質問への回答となるメモ程度は手元に置いたが、目を落とすことはほとんどなく、質問には自らの言葉で丁寧に応えた。市長自身のワクチン接種など、事前に予定していない質問にも真摯にその経緯や対応を述べた。

 「次の世代へ引き継ぐまちづくり」を掲げる臂市長。その政策提案は、産業、教育、安全安心、都市整備、医療福祉、歴史文化、市外連携、行政運営の8政策140項目と多岐にわたり、市政の隅々に網をかけている。市長就任前から「4年で成果を」と覚悟を決めて臨んでいるが、コロナ禍が立ちはだかっている。それでもインタビューではいくつかの政策提言の後に「少しでも変わることに繋がれば」と変化への意欲を滲ませていた。

 取材日は5月31日の午後で、インタビュー終了後に来訪者の予定も入っており、時間はきっちり30分間。細井篤企画部長の他、広報課長・係長の3人がサポートで同席した。記者の時間配分の失敗で、共生の理念、取り組み、行政運営などは終了間際のほんの僅かな時間でたたみかけた。臂市長が語りつくせなかったことは多くあったとみられ、来年に持ち越しとなった。(2021年6月24日、廣瀬昭夫)
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【写真】健康管理センター(左上)、赤堀保健福祉センター(右上)、あずま保健センター(左下)、境保健センター(右下)

あり方検討委員会で再協議 4保健センター再編・統合
臂泰雄伊勢崎新市長に聞く―2021【3】

 市内4保健センター(連取町の健康管理センター、東町のあずま保健センター、境の境保健センター、西久保町の赤堀保健福祉センター)を再編・統合し、大手町の伊勢崎福島病院跡地に計画している「新保健センター・子育て世代包括支援センター」(仮称)。加えて、公約に掲げられた保健所設置、夜間中学誘致などについて聞いた。

 ― 市内4保健センターの再編・統合による「新保健センター・子育て世代包括支援センター」(仮称)整備事業は、昨年パブリックコメトを実施しています。今後のスケジュールを教えて下さい。

 臂市長 実はその再編・統合案については現在「あり方検討委員会」を開いて再協議してもらっており、パブリックコメントも再実施する予定だ。そのうえで今年度中に基本計画を策定、2022年度に基本・実施設計、2023・24年度に着工・建設、2025年4月の供用開始を目指している。

 ― 新保健センターへの業務統合の際は、これまでの地域サービス業務は、どのようにカバーするのでしょうか。

 臂市長 私がイメージしている保健センターの再編・統合は、組織としてひとつにするということ。例えば今まで地域で行ってきた検診など、地域で出来るものは出来るだけ地域の支所なり、公民館などで行う。ただ、組織体制としてはあくまでもセンター内の職員で全体をカバーしていきたい。

 ― 県に委託している保健行政ですが、新たな負担や人材確保が見込まれる中で、保健所設置を検討する意図は。

 臂市長 新型コロナウイルスが影響していることが大きい。感染者情報がなかなか掴めないし、あっても使えない、とうジレンマがある。さらに対策でもPCR検査、陽性者に対する疫学調査をどのように行うのかなどに関与できないのが実情だ。市内の感染者が多かっただけに、そうした思いは強い。まずは自分のところで、情報をしっかり持ちたい。県の許可が必要となるため、コロナ禍が一段落した後に県と相談、検討していきたい。

 夜間中学「義務教育を受けられなかった多様な背景持つ人たちに」

 ― 全国の学生の8割が外国人国籍という公立の夜間中学の利用実態。県内未設置の夜間中学誘致を検討しているのは、外国籍市民が市内にも多いこともあるのでしょうか。

 臂市長 県のニーズ調査によると、そうした需要は多いとみている。ただ、外国人国籍に特化した夜間中学を考えているわけではない。夜間中学は様々な事情で義務教育を受けられなかった多様な背景を持った人たちが、互いに励まし、刺激しあって学んでいる。これこそが望ましいあり方だと思う。夜間中学設置を要望している皆さんの話を伺って改めて実感した。(2021年6月18日)
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【写真】市内最大の経済団体「JA佐波伊勢崎」本店

農政部独立 経済団体との連携強化
臂泰雄伊勢崎新市長に聞く―2021【2】

 就任わずか2カ月余。経済部を「農政部」と「産業経済部」に分ける大きな機構改革を断行した臂市長。あえて経済部から農政部を独立させた狙いと、安定的な工業都市基盤を固めていくための次の工業団地の見通しなどについて聞いた。

 ― 4月に経済部から農政部を独立させました。今回の組織改革には、引き続いての農業支援と効率的な農政運営に加えて、他にどんな狙いがありますか。

 臂市長 農政が従来から行ってきた担い手の育成、遊休農地の解消、老朽化が進む農業用施設の整備などは、当然より充実させていく。これまでと違った点でいうと、ひとつはJA佐波伊勢崎さんをはじめとする農業団体などとの意見交換会の実施だ。この前初めて開き、私や部長も出席し、組合長さんはじめ役員の皆さんからご意見を伺った。今後は担当者レベルによる定期的な取り組みで連携を深め、地産のブランド化、振興を図っていきたい。

 ― ふたつめとしては。

 臂市長 伊勢崎市内の雨水が下流に流れていくのは、用水路や排水路など農業施設からの場合がほとんどで、浸水被害や豪雨被害に大きな影響を及ぼしている。河川は県や国が管理している。市の災害対策を考える上で、農業施設の捉え方を考え直すことが重要だ。農政部として、都市計画部や建設部、下水道部門などとの関係部門と議論し、十分な対策を講じていきたい。

 準備が先行する「南部工業団地周辺」

 ― 2019年に完売した宮郷工業団地に続く工業団地として市は「境北部工業団地周辺」と「南部工業団地周辺」を候補に挙げています。実際の団地造成・分譲は県企業局が担いますが、現在どのような進捗状況でしょうか。

 臂市長 市としては県に「ここに工業団地を造って下さい」とお願いし、事業化に向けて準備を進めている段階。南部については既に地権者会が設立され、準備が整いつつある。一方、境北部は地権者への事業説明などは終えているが、地権者会の設立は今年度を予定している。

 ― 市内2カ所で同時進行の工業団地計画が、ある程度進んだ場合の優先順位は。

 臂市長 やはり事業化に向けた準備が先行している南部になると思う。周辺には八斗島工業団地や南部工業団地などが集積し、それぞれの企業との連携も図ることができる。加えて県の都市計画道路・境米岡線整備(伊勢崎深谷線の境東信号を起点に中島橋まで南下する手前の延長580メートル区間。今年度着工)で、工業団地周辺から17号バイパスまでまっすぐに抜けて繋がるなど、交通の利便性も高まることになる。

 ― 市内に集積する誘致企業などの協力を得て、“産業観光”を考えているようですね。

 臂市長 伊勢崎市内には現在、食品も含めてさまざま製造業が操業している。こうした企業では既に単独で工場見学会などを実施している企業もあるが、他にも声をかけて製品、商品などもその場で購入もできる、工場見学ツアーのような企画ができないか考えている。先端分野の生産現場などは、子供たちに興味を持って見学してもらえると思う。さらにツアー客を境島村の世界文化遺産の田島弥平旧宅にまで呼び込みたい。(2021年6月13日)
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【写真】丁寧に言葉を選びながら、施策を語る臂伊勢崎市長

「新型コロナウイルス対策に万全を期す」
 臂泰雄伊勢崎新市長に聞く―2021【1】

 新型コロナウイルスの感染拡大が、市民生活や地域経済に大きな影響を及ぼしている。伊勢崎市は感染者の増加で6月13日まで、まん延防止等重点措置の適用地域。市民には不要不急の外出自粛、事業者にも感染防止対策の徹底を呼び掛けている。臂泰雄伊勢崎市長は就任早々の2月5日、市独自の緊急事態宣言を発出し、山本一太群馬県知事と共同会見するなど、精力的に動いてきた。コロナ対策に加え、臂市長が打ち出している新たな取り組みなどを中心に聞いた。

 ― 新型コロナウイルス対策について、現状と今後について教えてください。

 臂市長 市内でも4月下旬から感染者数が増加している。地域の医療提供体制を維持していくためにも、その対策は重大局面にあると認識している。ワクチン接種では、既に高齢者施設の入所者から接種を開始。5月中旬以降はワクチン供給の目途が立ったことから医師会のご協力をいただき、身近なかかりつけ医での個別接種を推進している。本市としても、まん延防止等重点措置の適用となっている中で、引き続き県と連携を図り、感染症対策及び円滑なワクチン接種に向け、万全を期して対応していきたい。

 ― そのワクチン接種ですが、「危機管理上の必要性から」として、市長ご自身は既に接種(1回目4月27日、2回目5月18日)を終えています。「要職にある人の先行接種は当然」という声もありますが、1回目の接種前あるいは接種後、速やかな公表(記者会見は5月14日)などについては、どのように考えていたのでしょうか。

 臂市長 ワクチン接種は医療従事者、65歳以上の高齢者、基礎疾患のある方と、優先順位は決まっている。私の場合、高齢者枠の中で、射てる時に射たしてもらいたいと希望していた。医療従事者と同列に考えたり、キャンセルで余ったワクチンを射とうと思ったわけではない。そうした認識のため、あえて公表という考えには至らず、そうこうするうちに5月の連休明け頃からこの件が全国的に話題になっていった。射つ時点で話題になっていれば当然、公表はしていた。ただ今考えると、その時速やかに公表しておけばよかった、という思いはある。

    コロナ対策の県認定店に応援金

 ― 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、地域経済も疲弊しています。今、力を注いでいる対策は。

 臂市長 県が実施している「ストップコロナ!対策認定制度」の市内認定店を支援するため、応援金の申請受付(1店舗1回限り)を始めている。市内の認定店はこれまで441店、県申請受付で475店が手を挙げている。認定店は1000店を目標に、市内企業に認定取得を促している。応援金の交付対象はこれらの認定店で、5月末時点での申請は72店となっている。

 ― 毎年発行していたプレミアム商品券発行もコロナ対策として大幅に予算を割いています。

 臂市長 地域経済活性化のために市は毎年、10パーセントのプレミアム商品券を発行していた。当初は市内760店を対象に、総額2億2000万円の商品券発行を予定したが、総額を13億円、プレミア率も30パーセントに増額し、県の認定店を対象とする「使って応援!コロナ対策認定店支援発行事業」に切り替えた。(2021年6月3日)
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 任期満了に伴う伊勢崎市長選(来年1月10日告示、17日投開票)は、12年ぶりの選挙戦が展開される。五十嵐清隆現市長が支援を表明し、政策継続をベースに改革も訴える元自民党県議の臂泰雄氏(67歳 豊城町)、市政の刷新を掲げる36歳の4児ママで市議の栗原真耶氏(境上武士)、政治は未経験ながら「教育と政治は同じ」の理念の基に出馬する異色の学習塾経営者、蓬沢博亮氏(38歳 太田町)。これまで市政に無関心な市民にも、興味を喚起させる政策論争が期待される。政策を中心に3立候補者に聞いた。
第3回目は臂泰雄氏。

― 五十嵐市長が市長続投表明後、体調不良による出馬見合わせ、この間に新人立候補と、あわただしい動きをみせました。立候補に至るまでの心境は。

 県議としてこれからも五十嵐市政を支えようと考えていた最中の出馬辞退。市議・県議としての活動を通して市政の課題も把握し、今後に必要なことも分かっており、これまでのように県政のパイプ役として新市長を支えていくことも考えたが、自分がやってきたことを継続しながら、やり残したこと、もっとやれたことも振り返った。周囲の支援と協力の中、この大きな時代の波のなかで自分がやらなければ、の思いが決断を促した。

― 12年間の五十嵐市政をどのように評価しますか。その上での取り組み方針は。

 財政運営は手堅く、個別事業なども含めて基本的にやるべきことは、きちっと行ってきたと思う。一方、市民への発信力、市民活動への支援、市町村合併後の新市建設計画に基づく進捗などは市民の評価が分かれている。全国平均より高い市GDPと生産年齢人口に対して所得が低い、少ないという課題も見えている。政治信条の「共に生きる」という共生社会の実現に向けて行政の継続性を維持しつつ、課題を正面から捉えて事業を推進するために組織の見直しなどを検討している。

― 行政運営で具体的に検討しているのは。

 結論まで関わる「総合窓口」や市民の「声を聴く場」設置を考えている。支所のあり方を見直し、行政区の適正規模再編、副市長に国の人材登用、課題解決のためには外部人材も活用したい。補助金・助成金を見直し、施設・事業のスクラップ&ビルド化も行う。その他、農政部の新設など部局の一部再編を検討している。

― 産業、教育、まちづくり、インフラ整備も各種強化、充実策を打ち出していますが。

 誘致企業と市内企業、様々な業種間のマッチングによる連携の強化、工業団地内には集客施設を新設、観光物産部門で専門性を持つ職員の育成、配置を図りたい。学校では生きる力を学べる環境整備、実効性のある子供の貧困対策に取り組む。図書館の施設整備に合わせ、文化財や美術品などの展示施設、公共的複合施設整備、中心市街地活性化にまちづくり会社設置、JR伊勢崎駅から華蔵寺公園までの施設整備も検討したい。

― 環境カウンセラーとして環境問題への造詣が深く、政策も一歩踏み込んでいますね。

 国際社会共通の目標SDGs(持続可能な開発目標)を支援し、環境の街 日本一を目指していく。環境の街つくり条例、水環境・雨水利用条例の制定、温暖化防止係・水と緑の係設置、他にさまざまな環境整備推進や活動を支援したい。ごみ減量化を目指した処理方式の見直しと個別収集も考えている。市民の意識改革も求めていきたい。

― コロナ禍の市長選挙となりました。

 人が集まる集会などはできるだけ自粛することになる。有権者に知ってもらい、取り組みなどを伝える手段としてフェイスブック(FB)を11月に開設した。ブログもしばらく休んでいたものを今は一日置きのペースで更新している。2,3分だが、数パターンのプロモーションビデオを製作した。多くの若い人たちにも思いを伝えていきたい。

【取材メモ】先進的取組みの他自治体首長、東北復興と地方創生の課題に取り組むNPO法人代表などの特別寄稿も掲載した、政策提言選挙用リーフレット。積極的に情報を集め、多くの人の意見に耳を傾ける、氏の政治姿勢を物語る印刷物だが「分かりにくい」といった支援者の声にも触れ、思いを伝えることの難しさを反省する。
市民と行政が一体的に取り組む奈良県生駒市の小柴雅史市長が著した「『自治体3.0』」のまちづくり」。最近の印象に残った1冊として「市職員にも読んで欲しい」と感動を語った。(2020年12月23日)

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 任期満了に伴う伊勢崎市長選(来年1月10日告示、17日投開票)は、12年ぶりの選挙戦が展開される。五十嵐清隆現市長が支援を表明し、政策継続をベースに改革も訴える元自民党県議の臂泰雄氏(67歳 豊城町)、市政の刷新を掲げる36歳の4児母親で市議の栗原真耶氏(境上武士)、政治は未経験ながら「教育と政治は同じ」の理念の基に出馬する異色の学習塾経営者、蓬沢博亮氏(38歳 太田町)。これまで市政に無関心な市民にも、興味を喚起させる政策論争が期待される。政策を中心に3立候補者に聞いた。
第2回目は栗原真耶氏。

 ― 市議会議員立候補以前から政治には関心を持っていたのですか。

栗原 政治家に良いイメージがなく、当時は興味も関心も全くなかった。結婚して夫の住む伊勢崎に来た時、友達が欲しくてママ友を募り、さまざまなイベントを開いたりしていた。最終目標のグリーンドーム開催で、達成感のあとの空虚な思いにかられている時に、市議補選の話が出た。みんなで地域を造っていくのが議員の仕事と聞き「何かすごく楽しそう」が始まり。専門用語を覚え、家計と桁違いの予算額などに慣れるまで必死だった。

 ― 市政の現状と市長選に立候補するという決断までの経緯は。

栗原 子育てや高齢者の困っている実態がわかってくるにつけ、一議員ではどうにもならないもどかしさを感じていた。今年に入ってのコロナ渦で、その対応力とスピード感の欠如、情報発信不足など、市民の不安の声を聞く機会が増えた。「トップに立たないと今の体制は変えられない」という思いが、春ごろからふつふつと湧いていた。問題点のひとつは、市政に対する市民の無関心だと思う。どんなに素晴らしいビジョンを掲げても振り向いてもらえない。何より市政に興味、関心を持ってもらうことが必要だ。

― 市政への関心を高めてもらうためにどのような取り組みを。

栗原 Lineアプリなどのコミュニケーションツールで、市や市長を身近に感じてもらえるようにする。21万市民に向けて力を注ぎたいのは、各行政区、各団体、各世代別との対話集会開催だ。私自身が皆さんの集まりに、積極的に足を運ぶつもり。そのためには常に分かりやすい情報発信が必要で、広報体制ひとつとっても見直したい。逆に市民の小さな困ったが届くような環境と、速やかに対応できる役所づくりが急務と感じている。

―4児の母親として、子育て政策には当事者の声が反映されそうですね。

栗原 ゆとりある子育てのために、子育て世代包括支援センターには、メンタルもサポートするカウンセラーの配置など機能の充実と、子育て世代に加えて周囲や前後の世代でも支えあう「子育てシェアシステム」構築を考えている。旧福島病院跡地に計画している新保健センターは複合化したい。新会議所会館を計画している伊勢崎商工会議所と連携し、中心街の活性化を促していくためのひとつの案として、複合化も提案してみたい。

― 先の見えないコロナ禍ですが。

栗原 今最も大切なことは市民の皆さんの不安を少しでも解消すること。私なら自ら積極的な記者会見、情報発信に努めたい。休校・休園時の対策、市役所予防・対応マニュアル作成、市民や企業への各種支援強化を打ち出したい。財政難の中で無駄を省き、「稼ぐ伊勢崎市」にするため、1期4年ごとの2000万円の市長退職金を廃止し、それをさまざま支援に役立てたい。トップセールスで企業誘致や観光客増加を図りたい。

― どんな市長像を描いていますか。

栗原 市民のための市長になりたい。市長は特定の組織や一部の人たちで、調整してつくられるものではない。自分のいろいろな考えに対して「きれいごと」と一笑に付されたこともあるが、そのきれいごとを実現するのが政治だ。おかしいと思うことは、大きな声で「おかしい」と発言し続けたい。私がやらずに誰がやる、今やらずにいつやる!そんな思いで立候補した。

【取材メモ】実家は飲食店経営。店を手伝う中、接客で天性のコミュニケーション力が磨かれた。同世代だけでなく、初対面のどんな世代にも懐深く飛び込める人懐こさが強み。
 伊勢崎に遊びに来ていた時、その人懐こさで一学年下のイケメン夫(当時)を“逆ナン”。「子供の迎えを引き受けてくれる」夫、隣家の夫の両親やママ友などにも支えられて子育て、議員活動を続けてきた。多忙な現在、ささやかな楽しみは夫が好きで一緒に出かけるラーメン店巡り。(2020年12月18日 廣瀬昭夫)

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 任期満了に伴う伊勢崎市長選(来年1月10日告示、17日投開票)は、12年ぶりの選挙戦が展開される。五十嵐清隆現市長が支援を表明し、政策継続をベースに改革も訴える元自民党県議の臂泰雄氏(67歳 豊城町)、市政の刷新を掲げる36歳の4児ママで市議の栗原真耶氏(境上武士)、政治は未経験ながら「教育と政治は同じ」の理念の基に出馬する異色の学習塾経営者、蓬沢博亮氏(38歳 太田町)。これまで市政に無関心な市民にも、興味を喚起させる政策論争が期待される。政策を中心に3立候補者に聞いた。
第1回目は蓬沢博亮氏。

― 市長選立候補に至る理由と経緯を。

蓬沢 最終的に出馬を決めたのは11月上旬。これまでの市長選の投票率の低さや2回続けて無投票できたことを市民が不満に感じないこと。政治に変化を期待した。失敗を許容し、何回でもチャレンジできる社会を、教育者として政策で実現できる、と考えたことが大きい。再チャレンジには失敗から学んだ改善が前提だ。大まかな方向性は示すが、市職員や市議にはプロとして任せることは任せ、失敗したら私が責任を取る。そんな新しいリーダー像を示したい。

― 教育の理念を政治に活かすということですか。

蓬沢 教育というのは何かあったときに時に備えるもので、何かあった時では遅い。政治も同じだと思う。実は2年前の立憲民主党の公募に応募し、「教育者と政治家の仕事は同じ」と提言した。両者の大多数が目指しているのは「支援側にとって」のより良い未来。そこに差別の温存、人権軽視、恣意的なルールの運用が見られる。弱い立場で声を出せない人々の声を聴き、他者に不利に働く既得権益を無くし、公平・公正な社会を創造したい。

― その理念実現のための具体的施策は。

蓬沢 学校の部活を全世代が集える交流の場とする“全世代部活”の実現を目指したい。例えば専門性を持たない教員が部活顧問するのではなく、卒業生など先輩世代が担い、スポーツ・文化活動の地域総合開催で、上下世代との交流も深めてもらう。生徒数が地域で偏重している学校を統廃合し、廃校校舎を全世代の交流・学びの場にも活用したい。夜間中学もひとつの選択肢だ。地元企業の応援も募って運営する、江戸時代の“藩校”的なイメージだ。

― 再チャレンジを許容し、誰もが生きやすい人間関係のあり方にも触れています。

蓬沢 性別や年齢、婚姻関係などにとらわれない新たなパートナーシップ制度の創設を考えている。一方、一人で生きることに負い目を感じさせるのではなく、孤独も尊重し「“ボッチ”もよし」のムードも醸成したい。

― 観光分野でもさまざまな施策を提言してますね。

蓬沢 三尺玉も打ち上げられる利根川河川敷を利用した境の花火大会の復活、世界遺産登録の田島弥平旧宅なども含めた周辺地域の“養蚕テーマパーク化”、QRコードを張り付けた多言語看板設置、清掃リサイクルセンター21の敷地に温泉プール設置や他運動施設を整備する“スポーツテーマ化”、市内各所の公共施設内の無料Wi-Fiスポットの充実などを考えている。

― コロナ禍の選挙戦。どのように戦いますか。

蓬沢 メディアの皆さんへのお願いです。小規模でもいいから密を避け、立候補者、高校生、記者の皆さん、市議会議員などが参加する、座談会や討論会のセッティングお願いしたい。

― これまでのキャリアと政治未経験での市長選立候補は一見、無謀とも思えますが。

蓬沢 社会の未来を創る、という点では教育と政治のスキルは同じ。やりたいから出る、ということで他人に犠牲を強いるのは本意ではない。困っている人を支えることができると思うから出る。政治に関心がないのは困ってないからだ。ただ本当の声を救い上げきれていない部分もあるはず。私が出ることで、こんな面白いやつがいるんだ、いろいろな生き方があるんだ、と市民に思ってもらえるなら本望だ。

【取材メモ】もともとは教員志望で資格は取得したものの、「大学では教える技術を学べなかった」として、スキル習得のため学習塾業界に。保育士資格、日本語能力検定試験合格。現在は建築物環境衛生管理技術者、中小企業診断士に挑むなど、自らもさまざまな再チャレンジを実践している。
東日本大震災時に現地ボランティア参加。この時、生きる上での清掃スキルの必要性を痛感した。学習塾経営の傍らに営む「そうじ部」に活かされている。好きなコミックでは、ネットアプリで読む「最果てのパラディン」を挙げた。(2021年12月16日 廣瀬昭夫)

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