10月30日の硫黄島沖噴火による新島形成図(東京大学地震研究所ホームページより)

海底火山によって日本に新しい島が誕生中―過程を目撃できる貴重な機会
ニューヨークタイムス アジア太平洋欄記事(2023年11月7日付)

 現在も続く火山の噴火によって、硫黄島から1〜2キロも離れていない海上に小さな陸地が生まれた。これは火山にどのような働きがあるかについて学ぶ、またとない事例研究となる。
(ヒサオ ウエノ,マイクアイヴス)

 3週間前、硫黄島からの眺めは見渡す限り大海原であった。今、すぐ沖合に小さな新しい島があり、成長するにつれて煙を吹き上げている。これは火山島がどのように誕生するのかを目撃する貴重な機会となっている。

 この新しい島は、10月21日に噴火を開始した無名の海底火山の産物であり、第二次世界大戦中に米軍と日本軍が激戦を繰り広げた日本の島、硫黄島から1〜2キロも離れていない。

 東京から離れること数百キロ、太平洋に浮かぶ硫黄島では、噴火が始まって以来、負傷者や被害は報告されていない。この噴火では、珍しい地質学的現象をリアルタイムで見ることができる。

 昨年も同じ場所で同様の噴火が起きているが、今回は噴火地点が水面より上にある、と気象庁の臼井雄二・火山活動主任分析官は言う。

 アメリカ合衆国地質調査所によれば、世界中には潜在的活火山である陸上火山が約1,350あるという。科学者たちは、これまでにさらに数千の「海底」活火山を発見しており、より多くの活火山、あるいは陸上の活火山1つに対して数百ものの活火山が、波の下に潜んでいる可能性があると考えている。

 地質学的な歴史の点からいえば、ハワイ諸島を含む主要な島々は海底火山の噴火によって形成された。しかし、ほとんどの場合、これらの噴火を我々は実際に目撃することはできない。

 「ハワイを形成した噴火は、すべて我々の時代より前のものです」ニュージーランドのオタゴ大学の地質学教授で、海底火山の噴火を研究しているジェームズ・ホワイト氏は言う。「たとえポリネシアのカヌーに乗ってその上で待っていたとしても、海底火山の噴火が水面まで上がってこない限り、噴火を見ることはできなかったでしょう」

 気象庁の臼井氏によれば、硫黄島沖の現在の噴火は数週間前から激しさを増し、先週の金曜日と土曜日にピークを迎えた。東京大学地震研究所の報告によると、10月30日現在、新しい島の直径は約100メートル(328フィート)である。

 日本の同じ地域にある西之島火山の近くでも、2013年に同じような形で小さな島が形成された。その噴火は10年間続いたが、硫黄島付近の噴火は通常1カ月しか続かないと、地震研究所の中田節也名誉教授は言う。

 「噴火がいつ収まるかは不明です。噴火が続くとすれば、島はより高く、より大きくなる可能性があります「」

 ホワイト教授によれば、今回の噴火は、海中約500メートルを貫いてそびえ、山頂が硫黄島として海上に出ているとしている、より大きな「親」火山の側面から始まったようだという。

 ホワイト教授によれば、噴火は持続的な噴火柱を作るのではなく、大きな灰色の粒子が砲弾のような弾道弧を描きながら小さな粒子を吸い込む、指のような噴流で個別の爆発を起こしているという。噴火には赤熱したマグマも含まれており、その混合物が噴火の複雑さを物語っている、と教授は加えた。

 「火山学者でさえ、噴火がどのように起こっているのかを正確に言うのは難しいのです」と教授は言う。

 多くのアメリカ人が硫黄島を知っているのは、この島は連島の一部であり、1945年初頭、第二次世界大戦の死闘の舞台となったからである。

 ピューリッツァー賞を受賞した写真には米国海兵隊によると、米国人6人が写っているという。1945 年 2 月、島の上で星条旗を掲げた海兵隊員の姿は、アメリカ国民にとってこの戦争の忘れがたいイメージとなった。

 西之島火山から約130キロ、硫黄島から北に約2倍離れた父島に住む高橋由佳さんは、西之島噴火の硫黄や煙の臭いを時々感じたことがあったという。

 高橋さん(31歳)が6月に父島から出航した一泊クルーズで硫黄島を見たとき、海に囲まれており、噴火の兆候は見えず、匂いもしなかった。彼女が見たのは、自衛隊が運営する施設と、浜辺に浮かぶわずかな廃船だけだった。

 「新しい島が永久にそこにできるのか、それともまた海の下に沈んでしまうのか、非常に興味があります」彼女は現在の噴火についてこう語った。

 【翻訳】星大吾(ほしだいご):1974年生まれ、伊勢崎市中央町在住。新潟大学農学部卒業、白鳳大学法科大学院終了。2019年、翻訳家として開業。専門は契約書・学術論文。2022年、伊勢崎市の外国語児童のための日本語教室「子ども日本語教室未来塾」代表。同年、英米児童文学研究者として論文「The Borrowersにおける空間と時間 人文主義地理学的解読」(英語圏児童文学研究第67号)発表。問い合わせは:h044195@gmail.comへ。