女性の社会進出が男性優位社会を変えていく

数十年かかったが、日本の働く女性は前進している
ニューヨークタイムズ アジア太平洋欄記事(2024年5月8日付)

【モトコ・リッチ東京支局長 上乃久子記者 キウコ・ノトヤ記者】

 男女雇用機会均等法施行の翌年の1987年、後に皇后となる小和田雅子様は、たった3人しかいない女性外交官のうちの1人だった。彼女は、長時間労働をこなし、貿易交渉官として出世していった。しかし、彼女はわずか6年弱の任期を終え、皇太子(現在の天皇陛下)・成仁親王と結婚するためにその職を辞した。
 その後30年間で、日本の外務省にとって、そしてある意味では日本の女性全体にとって、多くのことが変わった。

 2020年以降、新人外交官の半数近くを女性が占めるようになり、多くの女性が結婚後もキャリアを続けている。1980年代まで女性は事務職としてのみ採用されることが主流であった日本におけるこのような進歩は、単純な数の力がゆっくりとではあるが、職場の状況を作り変え、リーダーシップのためのパイプラインを作り始めることができることを示している。
 日本は何年も前から、低迷する経済を助けるために女性の登用を推進してきた。民間企業の雇用主は、男性従業員に家事を奨励し、育児の妨げとなりかねない仕事後の外出の制限を設けるなど、一定の措置を講じてきた。しかし、多くの女性はいまだにキャリアと家事の両立に苦労している。

 そのような中、上川陽子外務大臣が率いる外務省は、他の政府機関や三菱、パナソニック、ソフトバンクのようなおなじみの企業名を凌ぐ、重要な進歩の兆しを見せている。
 外交官の原琴乃さんは、「働き方が劇的に変化しています」と語る。
 原さんは、2005年に同省に入省したたった6人の女性のひとりだ。昨年は、日本が広島で主催した世界首脳会議のイベント・マネージャーを務めた。
 主要7カ国(G7)首脳会議が開催されるまでの間、原さんは午後6時半までオフィスで働き、その後、家に帰って未就学児の子供の食事と入浴の世話をした。キャリアの初期には、このような仕事は 「ママがやるようなポジション」ではないと思い込んでいた。
 外務省における女性の地位向上は、エリート大学出身の男性が高収入の銀行やコンサルティングの仕事に目を向け、高学歴の女性が公的部門に魅力を感じるようになったことによる部分が大きい。
 しかし、女性が外交官として昇進するにつれて、他の雇用者と同じように家庭での仕事の大部分を担当しながら、長時間労働にも対応しなければならなくなる。
 同省の職員は夜9時か10時まで、時にはもっと遅くまで働くことが多い。7年前に外務省に入省し、今年初めに東京でコンサルタントの仕事に就いた楠田詩織さん(29)は、このような勤務時間は女性に大きな負担となる傾向があると言う。
 外務省の男性上司の多くは、食事や洗濯の世話をしてくれる妻のもとに帰り、女性の同僚は家事を自分でこなしていたという。男性は育児休暇を取ることが奨励されているが、取ったとしても数日から数週間のことである。
 楠田さんによれば、状況が変わった部分もあるという。仕事終わりの飲み会では、男性同僚がビールを出してくれるのを期待するのではなく、積極的に出してくれるようになったという。しかし、「帰宅後に洗濯や料理が必要な女性にとって、1時間の残業はとても重要」と楠田さんは言う。

 最新の政府統計によると2021年には、既婚で子供のいる働く女性が家事の4分の3以上を担っていた。転職サイトDodaの昨年の調査によると、日本の労働者は平均して月に22時間近く残業している。
 多くの職業では、残業時間はより長く、政府は最近、残業時間の上限を月45時間に規制した。
 1986年の男女雇用機会均等法施行以前は、女性は「お茶くみ」の仕事に雇われることがほとんどだった。経営幹部や管理職、営業職につながるようなポジションで雇用主が女性を採用することはほとんどなかった。
 今日、日本は深刻な労働力不足に対処するために女性の活躍が注目されている。それでも、25歳から54歳の女性の80%以上が働いているとはいえ、フルタイムの正社員の4分の1強に過ぎない。政府統計によれば、管理職には8人に1人しか女性がいない。
 一部の経営者は、単に女性がキャリアを制限することを選択しているだけだと言う。ユニクロを傘下に持つ衣料品大手ファーストリテイリングでグローバル人事部長を務める山口哲氏は、日本の女性は「グローバル市場の女性に比べてキャリア志向ではない。彼女たちの優先順位は、キャリアを積むことよりも子供の世話をすることだ」と言う。
 世界全体では、同社の管理職の45%が女性である。日本では4分の1強である。
専門家によれば、女性が仕事での成功と母親業を両立しやすくする責任は雇用者にあるという。また、少子化が進む日本では、職場や家庭での期待に押しつぶされ、キャリア志向女性の出産への意欲を削ぐことにもなりかねない。

 ソニーでは、日本における管理職の9人に1人しか女性がいない。同社は、働く母親を支援するために、父親となる社員にオムツ交換や授乳を教える講座を開くなど、ささやかながらも対策を講じている。
 東京本社で最近行われた講習会では、妊娠7ヶ月の佐々木聡子さん(35)が、夫でソニーのソフトウェア・エンジニアの雄大さん(29)が、妊娠中の身体感覚をシミュレートするために義腹を装着するのを見守った。
 東京の別の会社で事務をしている聡子さんは、夫の勤め先が男性に「女性の抱える状況を理解しようとしている」ことに感動したという。
 自分の会社では、男性の先輩から「あまりサポートしてもらえない」と涙ながらに語った。
 講座の講師である小坂隆之氏は、乳児の生後100日間に一般的な母親と父親が家庭で費やす時間を示したグラフを示した。
 「父親は何もしていない!」と小坂氏は父親の朝7時から夜11時までの労働時間を表す青い棒を指差した。「夜11時に帰ってくるということは、飲みに行ったということでは?」

 多くの日本企業では、終業後の同僚との飲み会が義務となっており、過労を生む状況を悪化させている。コンビニエンスストアのファミリーマートなどを傘下に持つコングロマリットである伊藤忠商事は、このような飲み会を抑制するため、飲み会の終了時間を午後10時までにすることを義務づけている。それでも子育てには難しい時間だ。
伊藤忠商事の東京本社に勤める大西里奈さん(24歳)は、週に3回はこのような飲み会に参加しているという。それは進歩だと彼女は言う。昔はもっと多かったのだ。
 長い昼間の労働に加えて、夜は飲み会だ。同社は現在、早朝5時からの勤務を認めているが、これは早く帰りたい親をサポートするための制度でもある。しかし、多くの社員はいまだに残業をしている。大西さんは午前7時半には出社し、午後6時過ぎまでいるのが普通だ。

 昇進を断念してでも労働時間に制限を設ける女性もいる。板垣麻衣子(48歳)は、広告コピーライターとして過酷なペースで働き、脳出血で入院した。回復後、結婚し、息子を出産した。 しかし、母親から電話があり、息子が初めて歩いたと告げられたとき、彼女は職場にいて、それを見ることができなかった。
「私はなぜ働いているのだろうと思いました」と板垣さんは言った。
管理職への昇進は辞退した。「プライベートの時間を犠牲にすることになると思ったからです。何でもかんでも私にやらせようとしているように感じました」。

 外務省の駐ハンガリー大使である小野光子氏は、1988年に採用された26人の外交官の中で唯一の女性だった。
 彼女は、上司に自分のキャリアを真剣に考えていないと思われることを恐れ、子どもを持つことを先延ばしにしていた。最近では、若い女性同僚たちに、もし子供を持ちたいのなら、一人ではないのだと言い聞かせている。
「託児所や両親、友人を頼ることもできます。もちろん、ご主人にも」

 翻訳:星大吾(ほしだいご)、伊勢崎市中央町在住。新潟大学農学部卒業。白鳳大学法科大学院終了。専門は契約書・学術論文。2022年、伊勢崎市の外国籍児童のための日本語教室「子ども日本語教室未来塾」代表。問い合わせは:h044195@gmail.comへ。