【写真】ロヒギャン難民特別支援を行っているアース・カンパニーHPより

地元プロが翻訳 ニューヨークタイムズ社説3
「ミャンマーの民主化運動家」(2022年6月23日付)

 米国の高級紙、ニューヨークタイムズ。その社説から、日本人にとって関心が深いと思われるテーマ、米国からみた緊張高まる国際情勢の捉え方など、わかりやすい翻訳でお届けしています(電子版掲載から本サイト掲載まで多少の時間経過あり)。地元の翻訳家、星大吾さんの協力を得ました。第3回目はミャンマー少数民族ロヒンギャの国内最大コミュニティー「在日ビルマロヒンギャ協会」が、群馬県館林市内にあることなどもあり、取り上げました。
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 我が国ミャンマーにもロシアに対するように天然ガスへの制裁措置を(2022年6月23日 ニューヨークタイムズ ゲストエッセイ)

ティンザール・シュンレイ・イー(ミャンマーの民主化運動家)

 ミャンマーの近代史は、植民地支配、軍事的抑圧、暴力、民主主義の否定の歴史である。私のような草の根の活動家、そして先達である何千もの活動家は、これを変えるために命を捧げ、身の安全を犠牲にしてきた。しかし、この1年で、事態はより深刻となっている。

 数十年に渡りミャンマーを支配してきた残忍で腐敗した軍部は、2021年2月に選挙で選ばれた指導者を打倒し、以降抗議する者を銃殺し、反対する者を拷問し、ミャンマーを混沌に陥れた。

 米国は当然のことながら、軍部を非難し、制裁措置を講じている。しかし、米国は、国民を弾圧する軍事指導者を弱体化させるための単純な措置、すなわちミャンマーのガス収入に制裁を加えることは控えている。

 ミャンマー石油ガス公社(MOGE)は、現在政府の管理下にあり、海底油田から採取した天然ガスの販売により、少なくとも年間15億ドルの収入を得ていると推定されている。このガスは、軍が罪のない市民に向ける銃弾や軍事費としての交換可能通貨の約半分を供給している。制裁を行い、長きに渡りミャンマー国民への弾圧を支えてきた重要な収入源を断ち切ることで、人々の命を救うことができる。

ミャンマーは1948年にイギリスの植民地支配から独立したが、1962年にタトマダーと呼ばれる軍事政権が権力を掌握した。それ以来、将軍とその取り巻きがミャンマーを支配し、鉱物、木材、エネルギーなどの天然資源から利益を得ながら、アジアの他の何百万もの人々が恩恵を受けている経済成長を自国民から奪うという自虐的な政策をとってきた。公衆衛生は悪化し、汚職、麻薬取引、その他の犯罪が横行している。少数民族は数十年にわたりタトマダーによる人権侵害を受け、民族組織は絶え間ない内戦状態の中で抵抗のために銃を手にした。ミャンマーの新しい世代は、もはやこうした状況には耐えられないだろう。

私たちは、2015年の選挙で国民が声を揃え民主化を支持したことで、ミャンマーの民主化移行が真の意味で飛躍することを期待していた。ちょうどインターネットが一般人にも手が届くようになり、私たちは外の世界を意識するようになり、世界の民主化運動とつながりをもつことができるようになった。

 その後数年の間に、私たちは多くの少数民族の処遇についても知るようになった。ミャンマー軍は2015年の選挙後、ロヒンギャ族に対する大量虐殺の罪で告発された。私たちが投票したアウンサンスーチー女史率いる文民政権がこれらの惨状を擁護したことに、私たちは大いに失望した。軍は実質的な権限を保持していたが、私たちを檻に戻すことは難しかった。そして、昨年のクーデターである。

 ミン・アウン・ハリン上級大将が主導し、民主派が選挙で圧勝した後にそれは起こった。市民による非暴力の抗議運動に対して、無差別殺戮、拷問、強制失踪、人間の盾としての利用など、恐るべき弾圧が行われた。国連によると、少なくとも142人の子供を含む1900人以上が殺害され、13,500人以上が政権への反抗を理由に逮捕された。

人口5400万人の我が国は今、奈落へと落ちつつある。100万人が国内避難民となり、推定1400万人が緊急に人道的援助を必要としている。国家機関やすでに弱体化している医療制度は崩壊の危機に瀕している。私たちは国中で抵抗している。何万人もの人々がジャングルで武装し、少数民族の抵抗組織の支援に頼っており、その結果、タトマドーの空爆や砲撃に曝されている。しかし、欧米からの支援はごく限られたものである。

 バイデン政権はミャンマー政府の資金10億ドルを凍結し、ミャンマーの軍事指導者たちの大部分と、彼らの資産となっている宝石、木材、真珠産業に対して制裁を課した。しかし、MOGEと合弁事業を行っているシェブロンがロビー活動を行う中、バイデン大統領はガス収入をターゲットにすることを控えた。

 それさえ可能ならば、政権財政に大きな打撃を与えることができる。MOGEの事業は、国家にとって唯一にして最大の収入源である。その多くは、シェブロンとフランスのトータルエナジーズがMOGEやタイのエネルギー企業とともに運営している主要なガス田から得られている。シェブロンとトータルエナジーズの両社は、天然ガスはミャンマーの電力の一部を賄っているため、制裁が行われればミャンマー国民は深刻な停電に見舞われると主張している。しかし、制裁によってガスを止める必要はないし、自由と安全を数時間の電気と引き替えにしろという提案には強い憤りを覚える。MOGEへの制裁を求める声は、海外からのものではない。ミャンマー国内から、軍への平和的抵抗に参加した何百もの市民社会組織、活動家グループ、労働組合らが声をあげているのだ。

 今年、トータルエナジーズとシェブロンはミャンマーから撤退する計画を発表した。しかし、政権が引き続きMOGEを通じてガス収入を得続けることは可能であろう。

 EUはMOGEに制裁を課したが、そこには穴があり、悪用の可能性がある。ロシアのウクライナに対する戦争能力を制限するために採用されたような、米国主導の実効性のある制裁が必要だ。

 数十年にわたる軍の支配と悪政によってミャンマーに蓄積された問題のすべてを解決することは不可能であろう。しかし、まずはタトマダーが飛行機や爆弾、弾丸、ジェット燃料、監視装置などの弾圧の手段を輸入できないようにすることから始めなければならない。私たちは、軍事的支配から解放され、平和と繁栄と、民族を問わずミャンマーのすべての人々のための真に民主的な未来を望んでいる。

 ガス収入がある限り、ミャンマーの人々の血は流れ続ける。

星大吾(ほしだいご):1974年生まれ、伊勢崎市中央町在住。伊勢崎第二中、足利学園(現白鳳大学足利高校)、新潟大学農学部卒業。白鳳大学法科大学院終了。2019年、翻訳家として開業。専門は契約書・学術論文。2022年、伊勢崎市の外国籍児童のための日本語教室「子ども日本語教室未来塾」代表。同年、英米児童文学研究者として論文「The Borrowers」における空間と時間 人文地理学的開設」(英語圏児童文学研究第67号)発表。問い合わせは:h044195@gmail.comへ。

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