【写真】伊勢崎銘仙の反物から生地を選び(左)、完成したスーツを着用(中央)。学んでいる太極拳の構えをとる澤浦さん(右)

一反の伊勢崎銘仙から男性スーツ仕立てる
「需要喚起の一助に」司法書士の澤浦さん

 緑と黒の市松模様は大ヒットアニメ「鬼滅の刃」の主人公、竈門炭治郎の羽織を思い浮かべるが、赤と黒の市松模様の伊勢崎銘仙生地から仕立てる、男性用スーツ、となるとイメージが難しい。元々女性用に織られ、生地幅なども男性スーツの仕立てには不向きで、ほとんど前例がないという。ちょっと無謀だが、ちょっとした遊び心で、あえて挑んだのが司法書士の澤浦健さん(伊勢崎市馬見塚町、80歳)。

 かつては銘仙の一大産地だった伊勢崎。現在は需要減少と生産者の高齢化で、新たな生産が立ちいかない。とりたてて銘仙ファンというわけではなかったが、当時の栄華を思い起こし、在庫に限りがあることや需要喚起の一助に、と思い立った。周囲からは着物で、と勧められたが、普段から身につける機会や習慣がなく、あえて洋服にこだわった。選んだ柄は日本古来の伝統模様の一つで、赤と黒の長方形を格子状にシンプルに並べたデザイン。黒地には矢羽のような赤い透かしを織り込んでいる。

 伊勢崎銘仙の一反の長さは約12mで横幅が約36cm。「横幅が狭く、男性用スーツの生地量としても厳しいかなと思ったが、澤浦さんが細身で小柄なことから何とかなった」と、仕立ての苦労を語るのは、澤浦さんとは旧知で仕立て業を営んでいた入山啓子さん(74歳、伊勢崎市東小保方町)。仕上がりは気軽におしゃれを楽しむテーラードジャケット風で、袖や丈は短くし、ポケットはズボンの右側にだけ、小さく控えめに付けた。澤浦さんは「気持ちがうきうきしてくる。軽くて肌触りがいい」と着心地を語る。

 暖かくなったら「東京・銀座を歩いてみたい」と、伊勢崎銘仙スーツの着用プランを考えている澤浦さん。司法書士として現在は、遺言、相続、後見に特化した活動を続けている。裁判所の家事・民事調停委員も歴任した。旺盛な好奇心と積極的な活動は80歳の今も衰えることを知らず、太極拳、詩吟、書道、合気道を楽しんでいる。最近は指先の鍛錬も兼ねて、楽譜だけの独学でピアノを始めた。

 伊勢崎銘仙は、明治から昭和にかけて女性の人気を集め、一大産業として地域の発展を支えた。織る前の糸を先に染める平織り絹織物で、たて糸とよこ糸に色柄をつけ、機でそれぞれの糸を1本1本合わせ織るのが特徴。最盛期の分業化で高度な技術を誇ったが、需要減退後は職人の高齢化もあり、商品生産が立ちいかなくなっていった。伊勢崎織物協同組合にも販売在庫は200反以上あるが、銘仙はこのうち30反程度で、一部は組合員からの預かり販売という。(2022年2月4日)