没後70年の「森村酉三企画展」で各地を訪ね歩き作品収集
    群馬県立近代美術館学芸員 神尾玲子さん(2019/11/08)
 【かみお れいこ】1967年生まれ・東京都三鷹市で育ち、現在は伊勢崎市波志江町在住。成城大学(東京都世田谷区)文芸学部芸術学科で西洋美術史、大学院で美学・美術史専攻。卒業後2年間のフランス留学を経て1997年、群馬県の学芸員として奉職。2001年開館の館林美術館に開設準備から関わる。2003年から近代美術館、2009年に館林美術館、2017年から近代美術館勤務。伊勢崎市内に居を構えたのは、高崎と館林の中間という通勤の利便性を考慮。
 伊勢崎市出身で鋳金工芸家の森村酉三の没後70年展「森村酉三とその時代」が10日まで、群馬県立美術館で開かれている。3年前から担当学芸員として企画から関わってきた。一般的にはなじみの少ない“鋳金”という芸術分野で、戦前から戦中、戦後の時代に「日本の伝統と西洋のモダンを掛け合わせ、独自の芸術文化を生み出すことができた良き時代を駆け抜けた存在」と森村を解説。もっとも「金属には不遇な時代だった」と付け加えた。

 戦時中の供出を免れ、伊勢崎市立三郷小学校が所蔵する森村の新田義貞像。生誕120年の2017年の年頭、双子の娘たちが通う縁から、残っていないと思っていた作品が身近にあることを知った。それが企画展開催へのきっかけだった。美術館の大展示室の大空間を埋めるための収集点数に不安はあったが、森村酉三・寿々夫妻の研究者の手島仁さんの協力も大きな弾みとなった。

 モダンなデザインの鳥、動物などの小さな置物や工芸的な花瓶、建築装飾品、人物などの彫刻と、森村作品は多岐に渡る。ただ文献で存在は確認できていても、戦中の金属類供出などで森村作品そのものは行方知れずが少なくない。所有は1,2点という個人も多く、情報を集めて地道に各地を訪ね歩いた。「あ〜、ここにあったんだ」という発見もたびたび。埋もれた作品に辿りつくことで、森村作品90点を含む140点を集めた。

 高崎の白衣大観音原型制作者で知られている森村は「当時の鋳金工芸の最先端を行く改革者の一方で、伝統を重んじるという両面を持つ」と見る。企画展では「花瓶などでは工芸的面、人物では彫刻家として、動物の置物ではモダンなデザイン」などが見どころと指摘する。

 中学校の歴史を学ぶ中で、仏像や立体物、彫刻に興味を持った。大学では西洋の古代彫刻や、ギリシャ、ロマネスク時代の彫刻を学び、フランス留学時代はそれらの現地を訪ね歩いた。建築の装飾にも興味があり、中世の建築コースも専攻した。地図を片手にフランスの片田舎を駆け回ったことで「ヨーロッパの文化の原点を知ることにも」と当時を思い起こす。

 所蔵作品の保存管理や展覧会の企画から開催までに関わる美術館の学芸員。「よりダイナミックだった」と振り返るのは、館林美術館在籍時に担当した「再発見!ニッポンの立体展」(2016年7月〜9月)。静岡・三重の県立美術館との共同巡回展として、アイデアと調整に時間をかけた。とはいえ学芸員の仕事は「一般的には雑用も多い」と、足を使った今回の企画展のようにフットワークの必要性も説く。

 常に企画展のテーマを考えている。プライベートの美術展巡りは「やはり仕事の延長になる」と家族は伴わない。娘たちには違う分野で、自分たちの好きなことを見つけて欲しいという思いもある。一方で足を運んで欲しいのは、自身が担当した企画展。普段から「理系の世界」の夫の関心は薄いが、「せめて」の思いは少なからずある。(廣瀬昭夫)

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